損益分岐点分析で事業構造を考える

ここでは損益分岐点分析を利用して事業構造の理解を進めてみます。
まずは損益分岐点分析のおさらい。

$$損益分岐点売上高=\frac{固定費}{1-変動費率}$$

以前の投稿のとおり、数式の意味は固定費を限界利益率(=1-変動比率)で割り戻す、つまり固定費限界利益で賄えるポイントを求めています。

 

固定費は低い方がいい?

一見すると固定費は小さい方が良い、損益分岐点売上高はできるだけ低い方がビジネスとして優れてそうですが、そんなに単純ではありません。

まずは損益分岐点売上高が同じで固定費が異なる2つの事業を並べてみます。

グラフA
ラフB

損益分岐点売上高は2つのグラフとも同じ10,000。

違いは、固定費限界利益率です。

$$グラフA 10,000= \frac{9,000}{1-0.1} →限界利益率は90%$$

$$グラフB 10,000= \frac{5,000}{1-0.5} →限界利益率は50%$$

 

グラフAは固定費が大きい分、その分をまず賄うのが大変。ただ損益分岐点を超えてしまえば限界利益率が90%と大きいので売上が伸びた分がほぼそのまま利益となります。

一方でグラフBは固定費が小さいものの、限界利益率が50%なので固定費を賄えても損益分岐点にたどり着くのは一苦労といった状態になります。

グラフAの事業は初期投資が大きい事業、インフラや装置産業などが当てはまります。グラフBは反対に労働集約型の事業や卸・流通などの仕入れ販売などが分かりやすい。

 

損益分岐点は低ければ良い?

AとBは損益分岐点売上高が同じだったので、そりゃ限界利益率高い方が有利でしょ、と思われるかもしれません。なので今度は固定費も損益分岐点売上高も低い場合Cと比べてみてみます。

グラフB
グラフC  


$$グラフB(再掲) 10,000= \frac{5,000}{1-0.5}  →限界利益率は50%$$

$$グラフC 5,000= \frac{1,000}{1-0.8} →限界利益率は20%$$

Cの損益分岐点売上高は5,000とBより低いことが分かります。早期に黒字化を実現したいならCは良いかもしれません。ただ限界利益率は20%とわずか。今後事業成長していった時どうなるでしょう。

 

グラフからだけでは分かりづらいので、BとC共に更に事業が成長していったと仮定して、販売量(x軸)が3,000[単価は10]のときの利益を計算してみます。

      $$売上高(販売量×単価)-変動費(売上高×変動費率)-固定費=利益$$

$$グラフB 3,000\times10-(30,000\times0.5)-5,000=10,000$$

$$グラフC 3,000 × 10-(30,000 × 0.8)-1,000=5,000$$

これを比べると利益に倍の差がついていることが分かります。グラフCは損益分岐点売上高はグラフBの半分でしたが、事業が成長していくと利益の伸びでBが勝ります。

 

グラフCの事業は、労働集約型事業の極みコールセンターや人材派遣、仲介だけを行う不動産会社なんかがイメージしやすいと思います。事務所と電話・ネット、あとは人だけいれば事業を開始できるものです。(本当はノウハウや色んなシステムだったり必要ですが)

初期コストが小さく、事業も始めやすい。ただ売上高の増加に伴って変動費も増えていくのでいつまでたっても利益の増加に繋がらないのが難しいところ。景気や市場の変動にも柔軟に対応できるかもしれませんが、利益が積みあがらないので次の投資や事業拡大が厳しい。何より日々足元のオペレーションで大変かもしれません。

以上より、固定費や損益分岐点売上高が低い場合でも限界利益率が適切かどうか正しく把握すべきです。

 

まとめ:事業構造に合った戦略を

固定費が大きい事業は投資のタイミング、リスクを取れる体力があるかどうかを見極めることが重要です。設備やシステムなどで仕組みを構築できればあとはそれをフル稼働させるだけ。逆に稼働率に余剰があるなら多少の値引きをしてでも受注してくるべきでしょう。

固定費が小さく、また同時に限界利益が小さい場合には、ひとつひとつ(一人ひとり)の生産性が重要です。値引きなんてもってのほか。反対に何らかの価値をつけて、単価を上げていくことにフォーカスすべきです。(労働集約型のビジネスに様々なオプションや一見関係のないセット販売が付いてくるのはこのため)

自分が携わっている事業はどちら側でしょう?一概にどちらの事業が良い、悪いわけではありません。大切なのは携わっている事業の固定費と限界利益率の構造を理解すること。その上で注力すべきポイントや追いかけるべき指標(KPI)をもって戦略を定めることが重要です。